妄想島ぐらし
人生を変えた北の島「利尻島」― 愛犬&カメラと理想の移住生活
ある日のお昼下がり、食後のコーヒーを飲みながら昔のことを思い出す。
「そういえば、初めて利尻島を訪れた時にプロ機材を購入したんだったなぁ。」
趣味ではじめたカメラも随分使いこなせるようになり、プロとしての仕事をちらほら受け始めたころだった。
瀬戸内海の島々や南の島が大好きな私は、その土地に暮らす人々の笑顔や、美しい街並みを写真におさめていく。温暖な島々の時間は、のーんびり、ゆーったり。そこに住む人はもれなくフレンドリーで、幸せな空気を切り取れるのだ。
その日は大きな仕事がひと段落し、久しぶりにのんびりしたランチタイムを過ごしていた。なにげなくインターネットをみていると、「利尻富士町アンバサダー募集」の文字が。
コーヒーの残りを飲みほして、急いでその内容をみてみた。利尻島に行って、様々な体験ができるこの企画。カメラの腕も試せるし、何より「利尻島」に行ってみたいとい気持ちにかられた。その場ですぐ応募したところ、Instagramの投稿で「旅好き」なことが評価されたのか、見事「アンバサダー」として採用になった。
思いがけず、北の島「利尻島」に行く機会に恵まれたわたし。
北の島は南の島と違うのだろうか。よそ者に厳しかったりするのではないか?
うぅ、ドキドキする……。
自ら志願したのだけれど、いざとなると小心者の私が出てきてしまう。
出発当日、期待と不安が入り混じった心境で、フェリーに乗り込んだ。利尻に到着した瞬間、目に飛び込んできたのは美しい海。キラキラ輝く海に目を奪われつつ、フェリーの階段を降りた。その時のことは、今でも鮮明に覚えている。
結論を言うと、私の心配は秒で吹き飛んだのだった。島の方は全力の笑顔で迎えてくれたし、同世代の方とはあっという間に仲良くなった。
神イベント「やきやき」
アンバサダーたちを笑顔で迎えてくださった利尻の方
アンバサダーのミッションは、利尻富士町や利尻島を良く知り、それを発信すること。そのため、島の様々なイベントに参加させていただいた。特に島の人とグッと距離を縮めるきっかけになったのは、「やきやき」と呼ばれるイベントだ。
利尻島の方は、バーベキューのことを「やきやき」と呼ぶ。可愛い女の子が「やきやきしよう!」というのを聞いて、「可愛いなぁ」と思ったのだが、ちょっと強面の男性も、躊躇することなく「やきやき」と言う。
可愛すぎる!
このギャップは、一定の層に刺さる「キュンポイント」だと感じた。
キュンですっ!
やきやきでは、利尻の海でとれた新鮮な海鮮が沢山振舞われる。私の胃袋が一瞬でギュッと掴まれてしまったのは、言うまでもない。
ちなみに、一番のお気に入りはプリップリのホタテ。一口食べた瞬間、その甘さに驚愕した。私史上最高のホタテ。まさにKING of Hotate!
最初は殻の外し方もわからず、優しい地元の方がむいてくれるのを「まだかなぁ?まだかなぁ?」とただただ待っていたのだが、今では自分でサッと殻を外し、レモン果汁をかけていただくことができるまでに成長した。
やきやきの他にも、お祭りに参加したり、利尻の産業を見学したり、島の人との座談会を行ったりと、1週間はあっという間に過ぎて行った。
「さよなら利尻」と思ったけれど……
初めての利尻島は、旅にしては長め、島の人と良く知り合うにはちょっと短く感じた。そう感じたのはきっと、利尻の人と利尻の自然が、いつの間にか大好きになっていたと言うことなんだろう。
こんな場所で生活できたら幸せだろうな。
でも、移住となると難しいんだろうか。
漠然とそんなことを考えながらフェリーに乗船。アンバサダーとしての利尻島滞在は、あっという間の1週間だった。「ちょっと寂しいなぁ……」なんておセンチな気持ちにひたっていると、ポケットのスマホが鳴った。利尻で仲良くなった方からだ。
「デッキに出てこれますか?」というのだが、え?なんだろう?忘れ物でもしちゃったかな?と急に不安に。もう船は出てしまっているのに……。
焦ってデッキへ出ると、そこには大漁旗を振りながらお見送りをしてくれている、島の方たちの姿が……。
これには泣いた。ひと目も憚らずにボロボロ泣いた。
1週間くらいの付き合いなのに。VIPな人ではなくただの一般人なのに。こんな経験ははじめてだ。思い出してもウルウルするくらいに感動した。
利尻にお別れを惜しんでいたはずだったのに、この光景を見て「ちょっと東京に行ってきます。でもまた来るね」、という気持ちに変わっていた。多分、これが私の移住を大きく後押しした出来事だと思う。見知らぬ土地で生活することを考えた時、周りに暮らす人々との相性は本当に大事だ。
「ただいま、利尻」
あれから1年、とある流行病の影響で私の価値観は大きく変わった。世間の価値観も変わった。都会に縛られない働き方、大切なものの優先順位。そのような影響を受けたのは、私だけではないだろう。
幸いフルリモートで働ける環境が整い、移住のハードルが格段に下がった。移住が現実的になり、私は着々と準備を開始。東京の会社は辞めずに在籍しつつ、私は利尻島に帰ってきた。
フェリーを降りながら心の中でつぶやいたのは、「お邪魔します」ではなく、「ただいま」。
今日から私は利尻の人になるんだ。
新しい生活を利尻富士町でスタート
利尻に来てから、私の生活は一気に彩り豊かになった。
古民家を借りて、愛犬と楽しく暮らしている。都会のマンションでは無理だったわんちゃんとの生活を、利尻で実現した。カーリーヘアーが可愛いトイプードルの女の子で、その名も「ウニ」。毛の色がウニっぽいからウニ、だ。
ちなみに、いつか余裕ができたらもう一匹、黒い毛のトイプードルを飼いたい。その子には「こんぶ」と名付けるとすでに決めている。ウニと昆布、仲良くしてくれるかなぁ?
仕事はと言うと、リモートワークで今までと同じ業務をこなしている。都会を離れた影響はほとんどない。私が勤める会社はフレックスタイム制なので、仕事さえきちんと終わらせれば、ウニとの時間もたっぷりとれる。家族との時間を大事にできるのも、利尻に移住したおかげだ。
仕事の合間にはちょっと海岸へお散歩に。途中、漁から帰ってくるご近所さんとご挨拶。「あとでホタテのおすそ分け、届けるからね!」なんてご近所づきあいも、東京ではなかったことだ。
リアルガチ!地域対抗玉入れ大会
利尻富士町の人たちは、本当にみんないい人なのだが、そんないい人たちが、必死に勝ち負けを競い合うイベントがある。それは、利尻のお祭りで行われる「本気の玉入れ」だ。
なんといっても、島民の方のチームワークと本気度がすごい!勝利チームの喜び方といったらもう、本当にすごくて、見ているこっちまで嬉しくなる。旅で来た時は外から見るだけだった玉入れだが、移住した今はもちろん私も参加者だ。
今回はあと一歩というところで優勝を逃した。悔しいっ……!
「来年こそは絶対優勝だぁ!」と、密かに、いや、盛大に闘志を燃やしている。
利尻ならではのお仕事で副業も
利尻富士町での生活にだんだん慣れてきた私だが、ここにきて新しい目標ができた。それは、観光客に同行し、利尻を案内しながら写真を撮るサービスをはじめる事。
その日、その時に見た利尻の絶景を忘れて欲しくない。
ふわっと頬を撫でた風を、穏やかで優しい波の音を、何気なく交わした会話を、写真を見るたびに思い出してほしい。
利尻での滞在を一生の思い出にして欲しい。
そんな風に思っている。
サービス開始に向けて、ホームページやチラシが必要だろう。お客様の要望に合わせて利尻を案内するためには、車もあったほうがいい。より良い写真を撮るために、新しいカメラ機材も欲しい。
なんて考えると、どうも先立つ物が結構かかりそうだ。
「本業とは別に、何かいい副業は?」と考えていた時、昆布干しのことを思い出した。早朝の仕事なので、本業と時間がかぶる心配もない。これだ、これしかない!
仲良しの友人に連絡すると、すぐに漁師さんを紹介してくれた。ドキドキしながら会いに行くと、そこには優しそうなおじいちゃんが。事情を説明すると、ニコニコしながら話を聞いてくれた。しかも、翌日から働かせていただけることに!おじいちゃん、ありがとう!!
巨大な昆布を干して、取り込んで。コツを掴むまではちょっぴり大変だけど、毎朝いい運動になっている。繁忙期だけ利尻に滞在して働く方もいて、たくさんの出会いがあるのも昆布干しバイトの魅力だ。自粛生活で増量した体重もちょっぴり減ったし、バイトを通して新しい出会いもあった。お金をもらいながらエクササイズをして、新たな出会いもあるなんて、一石三鳥!
流行病が落ち着いてきたら、国内外からまたたくさんの人が利尻島を訪れるだろう。思い出を形に残すサービス、喜んでもらえるといいな。利尻富士町で、利尻島の良さを伝えることがライフワークとなりそうだ。
利尻島の夜空に広がる満天の星
北の島に移住して、まだ日は浅い。しかし、私はすでにこの島を第二の故郷のように思いはじめている。寒い冬のことは考えただけで凍えそうな利尻島には、温かい人たちの笑顔で溢れている。
あとがき
私が利尻島を訪れたきっかけは、「利尻富士町アンバサダー」という企画でした。普段知らない土地を訪れる時は、事前にInstagramで情報を得る事が多いのですが、予想以上に情報が少なく、投稿内容にも偏りがありました。
ー あれ?もしかして何もない場所なのかな?
ー カメラ女子の私が行って、1週間満喫できるかな?
なんて不安を胸に向かいましたが、実際には、定番観光スポット以外にも素敵な場所をたくさん発見する事ができました。積み上げられたカラフルなブイ、可愛いカフェ、美味しい食べ物など、もっと多くの人に、利尻の魅力を知ってほしいものです。
また、どこを訪れても人混みに悩まされることがないため、後ろに人が写り込まない写真が撮れます!カメラ好きの者にとっては本当に嬉しいことで、撮りたい写真が撮れて大満足。
利尻島には名もなきフォトスポットがたくさんありますので、レンタサイクルやレンタカーで隅々まで巡ってみてください。きっとあなただけのフォトスポットが見つかりますよ。